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 ある夏の日、いつものように城を出る娘達を、西の魔女は城の一番高い塔にある自室から見送っていました。
 「いってらっしゃい。私の可愛い娘達・・」唇の端にふと笑みがもれ、あわててもとの感情のない顔にもどしたものの、日頃から厳しく禁じていいるため、誰もこの部屋に近づく者はないのでした。商談でここからさらに東方にある島国へ出かけるため、彼女は完璧な衣装とすきのない化粧に身を包んでいました。厄介もののボリュウムのあるちぢれた赤毛もなんとかおさえこんで今朝の彼女は、すこぶる機嫌が良いのです。
「 さて、・・」外出の前にいくつか片付ける事がありました。窓辺においた水槽を覗きこんで2匹の蝦蟇蛙にいつもより多めにえさの小虫をやると、オネにつくらせてテーブルに置いたスープにぱらぱらと短い呪文とともに白い粉をふって冷めない魔法をかけ、魔女はスープ皿を持って西側の壁にかかる大鏡の前に立ちました。今度は少し長い呪文を唱えてぐいとスープ皿ごと腕を鏡の中に差し入れると、ややあって魔女の白い手だけがもどってきました。「おやもうお出かけかい。元気のいいこと。」また一人つぶやくと、今度はばたばたと部屋のドアを開け、その貴婦人のような姿に似合わぬ声で「いいかい今夜は帰らないよ。さぼるんじゃないよ!」とドアの外の暗い階段にむかって怒鳴りました。
 すべてが片づくと魔女は年期の入ったほうきと旅行鞄を取り出して、窓から飛び立ちました。


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西の魔女の図(全身)
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