小学校の裏門を出ると、小川に沿って車の入らない農道が一キロほど続いていて、図書室で借りた本を歩きながら読んだり、れんげの田んぼで白花をさがしたり、ひっつき草で遊んだりと文字通り道草しながらぷらぷら下校していました。友達と一緒のことが多かったはずなのに、思い出としてよみがえるのは、広い空と田んぼの間にたったひとりいる至福の感覚です。
 小川のふちの雑草の間には野茨がはびこっていて、季節になると白い可憐な花が密集して咲いていました。花のすぐ近くまで茎にするどいとげがあって、触れると痛く、れんげや昼顔とちがって花を摘んだ記憶はありません。詩や童話、童謡にたびたび登場する「野ばら」があの植物なのだと気がついたのはずいぶん後になってからの事ですが、ロマンチックな「野ばら」のひびきよりは「野いばら」のほうが花の姿にふさわしい感じがします。
 おかっぱ頭の小学生だった私は、この農道でぼんやり考え事をしながら歩くのが大好きでしたが、けっして「夢みる少女」ではなく「夢みる少女にあこがれる普通の女の子」でした。「宇宙からやってきた緑の髪の少年」を空想してみたものの・・・これは空想癖のある少女になりたくて無理やりひねりだした空想だ・・・と妙に意識していて、いまだに思い出として混同されることはなく、はっきりとその「無理やり感」を覚えています。
 小川は小学生の私からは、雑草のために水面がみえないほどの狭い流れでしたが、一ヶ所だけ二つの川の合流地点で深く池のようになっている場所があって、コンクリートの橋がかかっていました。そこで近所の若い男性の水死体が発見された事があって、しばらくの間学校中の噂話の話題になっていました。突然の持病の発作による事故死だったようですが、この記憶(もちろん直接遺体を見たわけでありません)が野いばらの白い花と結びついてインプットされてしまったせいか、私の中で「野いばら」は「死」の匂いのする・・闇色のバックにふさわしい花となりました。

野いばら

特集2003年5月