お 菊

今月の特集/2003年11月

 江戸の有名な怪談の主人公。
岡本綺堂の「番町皿屋敷」は大正5年の作で、ストーリーも近代化されていて、主人に思いを懸けられている腰元お菊が、その心を試すために、家宝の10枚揃いの皿の1枚を割ってしまい、恋を疑われたことに腹をたてた主人によって惨殺される・・・・といったものだったように記憶しているのですが、(違ってたら、ごめんなさい。)歌舞伎ではもっと単純に、極悪非道のお殿様に、なんの罪もない腰元が濡れ衣をきせられSMばりの折檻の末、袈裟懸けに切られて井戸に落とされるという無残な話が基本です。
 歌舞伎では番町皿屋敷、播州皿屋敷。それ以前には雲州・松江皿屋敷という同様の話もあるようです。大正以前の日本では、腰元や女中が、横暴な主人の犠牲となって命を落としたというような話はいくらでもあって、庶民のそのうらみつらみがこの怪談を今日までささえてきたのでしょう。
 わたしが惹かれるお菊の魅力は、惨殺されて幽霊になってもまだ皿を数えているところです。腰元と言う職業意識のせいなのか、何処から見ても極悪人である主人を恨んだり呪ったりする前に、まず自分に落ち度がなかったのかどうかに囚われているその善良さけなげさが、この幽霊を可愛らしいものにしていて、この怪談をおどろおどろしいというよりは、あわれな美しい物語にしているように思います。





歌舞伎連作
「播州皿屋敷」
お菊

播州姫路でお家乗っ取りを企む青山鉄山は、その秘密を忠臣船瀬の妻お菊に立ち聞きされたことから、お菊のあずかる重宝の皿を1枚隠しその罪をきせてお菊を惨殺。死体を井戸に投げ込むが、お菊の幽霊が夜毎井戸に現れて、鉄山一味を自滅に追いやる。