今月の特集2004年2月〜3月

椿  つばき

 たった一輪、花器に挿された椿の花は日本的で、わび・さびの世界にふさわしい高尚なイメージがありますが、私の椿は、九州の田舎の陽だまりの中の幸福の花です。
 農家には珍しく、若い夫婦と子供だけの所帯だった父母の小さな家の、さほど広くもない庭には、所狭しと花や果樹が植えられていて、四季折々花や果物の絶えることがありませんでした。イグサの産地で農繁期の忙しさはこの上なく、その上に乳牛を飼っていた両親が3人の子供を育てながら、花や木の世話までこまめにしていたのが、都会であくせく生きている今の私には不思議に思えます。経済的な事とは別の「豊かな生活」があったと懐かしく思い出すのは、自分が子供だったせいなのでしょうか。  大阪よりも寒い冬の間に梅や蝋梅が咲き、春の日差しになると真っ先に水仙が咲き赤や白の椿が咲き、ぼけ、こぶし、桃、、桜とつづき、5月になると朱色の鮮やかなさつきの花、そして父が最も丹精こめていた肥後菖蒲が小さな池を縁取り、清楚なカラーの花、あじさい、姫しゃが、・・・子供達の楽しみだったのは、庭梅やぐみ、桃、いちじく、かき。すっぱくて今スーパーで買うものほどおいしくはなかった、きんかん、みかん、はっさく、ザボン・・・思い出すときりがないほどです。
 赤の椿は多分藪椿で、まだ小さい木だったせいか「わび」のイメージとはほど遠く、たくさんの花をあっけらかんとつけてはぽとぽとと花を落としていました。イグサで畳表を織る作業の合間に、母がきれいな花だけを拾って畳表に使う太い糸に通して、花の首飾りにしてくれるのが椿の頃の楽しみでした。年を経るごとに懐かしさはつのるばかりです。
 下の絵は、大人になって旅行した隠岐の島で、「椿がこんなに大きくなるんだ・・」と驚いた大木の森の印象です。少し季節が早かったのか、花は見上げたはるか上の方にぽつりぽつりと咲いていて、、たった一人椿の森にいる至福と・・外界から迷子になってしまったような不安とを同時に感じたものです。
 
                                 椿の森で